医療法人化で「借金」は引き継げる? ― “負債の引継ぎ”に潜む落とし穴

個人クリニックの法人化(法人成り)を考え始めた先生から、必ずと言っていいほど受ける質問があります。

「今ある借入(医療機器のリース、内装工事、運転資金)は、そのまま医療法人に引き継げますか?」

答えは、「引き継げるものもあれば、引き継げないものもある。そして、その線引きを誤ると、設立認可でつまずく」——です。ここには、医療法人ならではの落とし穴がいくつも潜んでいます。医業に特化した行政書士の立場から、順に整理します。

大前提:医療法人は「認可制」である

まず押さえるべきは、医療法人が都道府県の認可を経て設立できる法人だということです。そして都道府県の指導・監督のもと、医療法順守が大前提であり、株式会社とはまったく別のルールで運営する必要があり、それは医療法人を設立する際も欠かせない留意事項です。

落とし穴①:引き継げるのは「設備資金」の融資だけ。運転資金は引き継げない

医療法上、法人成りの際に医療法人へ引き継げる負債は、設備資金——つまり、医療機器や内装といった“設備”への投資に充てた借入——に限られます

一方で、運転資金(日々の仕入れや人件費などをまわすための借入)は、引き継げません。開業時に運転資金を借り入れている先生は非常に多く、その借入は法人に移せない、という前提で資金計画を組み直す必要があります。金融機関によっては運転資金部分の融資の一括返済を求められることも

落とし穴②:負債は「資産に見合う範囲」でしか引き継げない

医療法人の設立認可では、その法人が安定して医療を続けられるだけの“財産的基礎”があるかが審査されます。つまり、引き継ぐ資産を大きく超える負債(実質的な債務超過)を、そのまま法人に背負わせることはできないのです。

その場合は可能であれば、現金拠出を増やし、資産と負債のバランスが取ることがベストですが、先生方のご負担となってしまうことでしょう。

「法人にすれば、借金もまとめて移せる」——この単純な思い込みが、認可の遅れや、思わぬ税負担を招きます。負債がある状態での法人化ほど、初期の設計が成否を分けます。

落とし穴③:設備資金でも、都道府県の“個別ルール”で引き継げないことがある

「設備資金の融資なら引き継げる」——①でそう書きましたが、ここにもう一段、罠があります。

同じ設備資金の融資でも、都道府県ごとの個別ルールによって、引き継げないと判断されることがあるのです。

とくに厳しく見られるのが、融資が実行された時期と、その設備を支払った時期の関係です。たとえば——

  • 融資が実行される“前”に支払った設備は、対象外
  • 融資実行から一定期間が経ってから支払った設備は、対象外

といった具合に、「その融資が、本当にその設備の取得のために使われたのか」を、時系列で厳格に確認されるケースが多くあります。銀行が「設備資金」として実行した融資であっても、この時系列の要件に合致しなければ、法人への引継ぎが認められない、ということです。

しかもこの取扱いは自治体によって異なり、明文化されていない運用も少なくありません。だからこそ、融資の実行日と、各設備の支払日の記録を、申請前に一つずつ突き合わせておくこと、および都道府県のローカルルールの把握が欠かせません。ここを詰めないまま進めると、「引き継げるはずだった融資が、直前で弾かれる」という事態になりかねません。

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この記事を書いた人

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道原 信治(行政書士)

山口県宇部市出身、1986年生まれ。
2022年に行政書士法人を設立、代表に就任。
医療法人設立・分院開設などの医療法人手続きを専門とし、現在では関連分野の薬局や医薬品許認可、資金調達や経営のコンサルティング、弁護士・会計士との提携のもと事業承継・M&Aなどの分野にも活動の幅を広げている。